篤があつしに変わるまで12『秋田さんの粋なはからい』

このエピソードからお読みの方は、 『篤があつしに変わるまで 0 プロローグ』 からお読みください。

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 ジャーナリストの秋田さんは、自分が懇意にしている東新宿出版の青森編集長を快く紹介してくれた。

 東新宿出版……。
 決して派手ではないが、ボクもその名前は確かに聞いたことがある。
 しかし、その出版社が出す本といえば『あなたにも忍び寄っている成人病』みたいな、健康書ばかりという印象だった。

<東新宿出版がコンピュータ書は出さないだろう。やはり、悪い予感が当たったな>

 ボクは落胆しながら、秋田さんと電話の向こうの青森編集長の会話を聞いていた。

「青森さん? 秋田ですが」
「えー、そうなんです。ボクはパソコンはまったくわからないんですが、すでに原稿が完成しているんですよ」
「ボクも今日初対面ですが、非常に熱心な好青年ですよ。なんとかならないものですかね」
「え? 早速、明日時間を割いてくださる? ありがとうございます。すぐに伝えておきます」
 そう言って受話器を置いた秋田さんは、ボクに向かって言葉を発した。
「大村さん。明日、東新宿出版の青森編集長にお会いになってはいかがですか?」

 なんかよくわからないが、ちょっと凄いことになってきた。
 完全に風向きが変わってきた。
 そんな気持ちがこみ上げてきて、自分がみるみるうちに興奮していくのがわかる。

 健康書しか出さない出版社ではあるが、品川出版とは違い、明らかに「本を実際に出版している」出版社である。
 書店で、その出版社の書籍を手に取ったことのあるボクの記憶と体験が、それだけは証明している。

 しかも、お相手してくださるのは編集長……。
 これは、ひょっとすると……。

 数分前まで暗かった気持ちにもう光が射している。
 なんとも単純な性格。

 本来ならば、明日といわずに今すぐにでも茅場町から新宿に移動したいくらいだったが、青森編集長に会う前にしなければならないことがある。
 それは、本の企画書と自分の履歴書作りだ。

 いくらなんでも、いきなり300ページもの原稿を読んではくれまい。
 ボクは、福島社長の「売り込み」が失敗した最大の原因は、本の企画書ではなく、原稿を持ち込んでいたためだと真剣に考えていた。

 それに、どこの馬の骨ともわからない人間に本を書かせてはくれないだろう。
 そうなると、やはり履歴書だ。

 ボクは、急いで静岡県富士市の自宅に戻ると、早速本の企画書と履歴書を書き上げ、翌日、原稿とともにそれらを携えて、再度東京に、今度は新宿に向かっていた。

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